一階から二階に螺旋を描いてつながる通路の前、エントランス向かって正面に横幅4メートルを超えると思われる大きな絵がかかっていました。夜のように深い黒一色の絵でした。寄って見ると無数の力強い描線が横に走っていました。画面が真っ黒になるまで鉛筆で埋めつくした上に墨をのせる工程を何度も繰りかえしてできたその絵は、大きさも密度も圧倒的、静けさと狂気にも似た緊張でみたされていました。
作者は梶岡俊幸さん。作品は故郷に近い隅田川を描いたものでした。トークセッションの際、夜の河辺で何時間も水面を凝視していたらお巡りさんに職質を受けたというエピソードを聞きました。絵から妖しい気が発散されるのも納得です。対象をしっかり見てしっかりインプットしているからアウトプットに説得力があるのです。
レセプション・パーティーの席上、ある友人から作家を紹介されました。寡黙で不器用で芯が強い人だと感じました。こういう絵描きは良い仕事をするものです。ますます興味が沸いてきて、首都圏で展示がある時はご案内くださいとお願いしました。
今月9日から26日まで梶岡俊幸展『The Birth Canal - 未来へのうねり』が同じスパイラルガーデンで開催されています。
http://www.spiral.co.jp/e_schedule/2009/04/artlife-vol11-the-birth-canal.html
縦5メートル・横9メートルの大作は圧巻、おしゃれなな街のおしゃれな建物に漆黒の水面がひろがる様は壮観でした。普段とは違う空間になっていましたが、かといって決して不快ではない。逆に安らぎすら覚えました。相変わらずクオリティの高い作品がならんでいました。これまでと違ったのは描線のバリエーションが増えていたことです。筋繊維束のような弧線が密集する変化に富んだ描き方や、水平に近い落ち着いた調子は見たことがありませんでした。作家本人になぜこのような作風になったのか尋ねてみました。
梶岡さんが大学進学を機に関西に移り住んで10年、ようやく鴨川や琵琶湖などが生活や自身の一部になってきたそうです。逆に隅田川が身近に感じられなくなった。河口付近のゆるやかな水の表情より中流の起伏に富んだ流れや湖の凪にリアリティを感じるようになった。今やっと関西の水面が描けるようになったのだ、と、大体そのようなことを伺いました。いかにもこの人らしいと思いました。嘘や妥協がないことも、物事に慣れ親しむのに時間がかかることも。
光の方向や強弱・場所によって表情を変える作品の魅力を引き出すため、あえて光量に変化をつける照明も見事でした。非常に良い展示です。週末お時間のある人はぜひぜひご覧ください。(S)
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