和紙作りというと、たいてい紙漉が連想される。
しかし、これは最終工程の場面であって、その前には収穫した原料から繊維を取り出す作業があり、原料の栽培・管理まで含めると、それこそ1年がかりの工程となる。
主な原料となる楮はクワ科の落葉低木で、1年で3メートル近く枝を伸ばす。これを、小川町ではたいてい1月に、根元の株を残して刈り取っていく。
収穫した枝は、すぐに大釜で長時間蒸していく。こうすると枝の芯から樹皮が剥ぎやすくなるのだ。蒸し上がった楮の、焼き芋に似た芳香につつまれながら、枝の束を前に樹皮を剥ぐ作業が延々と続く。この行程を経て得られたものを「黒皮」といい、作業後は天日乾燥させておく。

図01:乾燥後の黒皮。枝を蒸すと、樹皮はバナナの皮のようにつるりと剥ぐことができ、
美しい白い芯が現れる。

図02:黒皮の内側。黒い表皮とその内側の緑色の繊維を削ると白い繊維が現れる。
次に、この黒皮を、使う分量だけを煮込んで柔らかくし、外側の皮をナイフでひたすら削り落とし、白い繊維「白皮」だけを取り出していく。
そしてこの白皮を、今度はソーダ灰と一緒に煮込んで不純物を除去した後、何日か流水に晒していくと、次第に繊維の白味が増していく。
水上げする際には繊維にこびりついた不純物やチリを一つ一つ手で取り除き、最後に、これを叩いて、細かい繊維にほぐしていき、ようやく紙料が完成する。
こうした行程のそれぞれの加減の違いで、様々な紙のテクスチャーが現れる。
小川和紙では、紙料を薬品漂白することなはいのだが、行程の一つ一つに手間暇かけることで、独特の風合いを持つ白い紙が生まれる。
もちろん、白皮以外の余った繊維でも紙を漉くことができる。これがいわゆる「ちり紙」で、強度も弱く、文字を書くには適しないが、独特な味わいを楽しむことができる。

図03:左がちり紙。2〜3枚目は緑色の繊維や小さなチリが混じっているが、行程の手間暇をかけることによって、右のような白い紙が出来る。
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さて、紙漉では、楮の他にトロロアオイという植物の根から抽出した粘液を混ぜるのだが、これが低温でしか使用できない。さらに楮の収穫から紙料づくりが、農閑期の冬の仕事でもあるため、生産者は寒いなか水作業に長時間従事しなければならなくなる。
和紙需要が低下し、安価な海外産が流入するなか、手間暇かけても卸価格が安い紙料生産を農家が敬遠するのは当然だ、というのが一連の作業を体験した後の感想だ。
さらには、紙漉で使用する簀や桁も、これを製造できる職人もすでに高齢で、国内にはもう数える程度しかいない。したがって、紙料同様、そのほとんどが、今では中国で製造されたものを輸入しているらしい。つまり、中国製の簀桁を使い、タイ楮を原料とせねば、安価な「和紙」の製品を流通させられないという現状が、厳然としてある。
そうした和紙をめぐる厳しい現実を触れたあとでは、紙きれ一枚でも、それを手にしたときの感慨はひとしおだ。そして、逼迫する和紙産業に光がないわけではもない。
小川町を始め、全国の産地には、自らの手で作った和紙や紙料で自らの作品を創作しようとする画家、書家をはじめとするアーティストやデザイナーが数多く集まってきているのだ。彼らと職人や楮生産者との交流は、単に、新たな作品や新しい製品や技術の誕生をうながすだけでなく、和紙と人々の関わりを見直す契機となるだろう。和紙にとどまらず伝統産業の活性化を模索する手がかりもまた、そこから生まれていくと思うのだ。
(makoto suzuki)
posted by ART BOX at 18:26| 東京 ☁|
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